子どもの成長と発達について

「もう◯ヶ月なのに、まだハイハイしない」
「周りの子はもう歩いてるのに、うちの子だけまだ…」

こんなふうに検索して、このページにたどり着いた方も多いんじゃないかと思います。

子育て中、ふとした瞬間に「大丈夫かな」と不安になる。その気持ちは、お子さんのことをちゃんと見ているからこそ生まれるものです。

ただ、先に一つだけお伝えさせてください。

ハイハイの時期が遅いからといって、発達が遅れているとは限りません。

そもそも「ハイハイ→つかまり立ち→歩行」という順番は、すべての子どもに100%当てはまる”正解のルート”ではないんです。

このブログでは、発達の科学的な研究をもとに、「なぜ子どもによって発達の順番やタイミングが違うのか」を、できるだけ分かりやすくお話しします。

目次

「◯ヶ月で◯◯ができる」は、どこから来た数字なのか

育児書や検診でよく見る発達の目安。

「首すわりは3ヶ月」

「ハイハイは8ヶ月」

「ひとり歩きは12ヶ月」

この”標準”のもとになっているのは、実は1920〜60年代にアメリカで行われた、限られた赤ちゃんの観察データです。

しかも、観察した赤ちゃんの数は、数十人規模と少ない。

そこから「発達は下から順番に積み上がるもの」という考え方が広まりました。

首がすわって、寝返りして、お座りして、ハイハイして、歩く。まるで階段を一段ずつ上がるような発達のイメージです。

でも、その後の研究で分かってきたのは、発達はそんなにきれいな一本道ではないということ。

順番を飛ばす子もいれば、できていたことが一時的にできなくなる子もいます。

それは「異常」ではなく、発達の自然な姿です。

赤ちゃんの「足踏み」が消えたり現れたりする理由

ここで、一つ面白い研究を紹介させてください。

生まれたばかりの赤ちゃんの足を床につけると、まるで歩くように足を交互に動かします。「ステッピング反射(足踏み反射)」と呼ばれる動きです。

ところが、生後2〜3ヶ月になると、この動きはぱったり消えてしまう。

昔はこう説明されていました。「脳が成熟して、原始的な反射を抑えるようになるから消えるんだ」と。

つまり、脳の発達が進んだ”証拠”だという考え方です。

でも、アメリカの発達心理学者エスター・セーレン(Esther Thelen)は、ここに疑問を持ちました。

彼女がやった実験はシンプルです。

足踏みをしなくなった赤ちゃんの足に小さなおもりをつけると、足踏みがさらに出なくなる。逆に、赤ちゃんを水の中に入れて足を軽くしてあげると、消えたはずの足踏みが復活したんです。

つまり、足踏みが消えた理由は「脳が成熟したから」ではなく、「赤ちゃんの足が重くなったから(体重が増えたから)」だった。

この発見は、発達の研究に大きな転換をもたらしました。運動の発達は「脳からの命令」だけで決まるのではなく、身体の状態と環境が絡み合って生まれるものだということが分かったんです。

セーレンはこの考えを「ダイナミックシステムズ理論(DST)」として体系化しました。

ざっくり言えば、「発達は、子どもの身体・やろうとしていること・周りの環境、この3つが絡み合ったときに、新しい動きが自然に生まれてくる」という見方です。

※このほかにも、足を着けると反射が起きるのではなくて、視覚によるオプティカルフローだった(Barbu-Roth(2009〜))という研究もあります。どちらにせよ、脳の発達によって子ども達が成長するのではありません。

世界の赤ちゃんは、私たちが思っている以上にバラバラ

「ハイハイは発達に欠かせないステップ」と思っている方も多いかもしれません。

専門家の中にもそのように発信している人が多いです。

ところが、世界に目を向けると、ハイハイをしない赤ちゃんはまったく珍しくありません

たとえば、ジャマイカでは約29%の赤ちゃんがハイハイを経験せずに歩き始めたという報告があります(Hopkins & Westra, 1990)。ハイハイと歩行がほぼ同時に始まる子もいました。

ケニアのコクウェット地域では、赤ちゃんは座る・立つ・歩くが西洋の子どもより約1ヶ月早い一方で、寝返りやハイハイはむしろ遅かったそうです(Super, 1976)。お母さんたちが農作業中に赤ちゃんを背中に背負っていたため、縦の姿勢での運動経験が豊富だったことが影響していると考えられています。

ウガンダの赤ちゃんは4ヶ月でひとり座りができたという報告もあります。西洋の基準では7ヶ月が目安ですから、3ヶ月も早い。

逆に、中国北部のある地域では、赤ちゃんを砂袋に入れて身体の動きを制限する習慣があり、運動発達のタイミングは遅くなる傾向がありました。

どの赤ちゃんも「異常」ではありません。

育つ環境が違えば、身体の使い方も、動き始める順番も、タイミングも変わる。

「正しい発達の順番」が一つだけ存在するのではなく、その子の身体と環境の組み合わせの数だけ、発達の道筋があるということです。

■ 日本の育児情報で気をつけてほしいこと

最後に、一つだけ触れておきたいことがあります。

SNSや一部の育児情報で、「原始反射の統合」や「発達の土台を下から積み上げる」という考え方を目にすることがあると思います。

原始反射が「残っている」状態を観察すること自体には、ある程度の知見の蓄積があります。

しかし、「残っている反射を訓練で統合させれば発達が改善・前身する」という主張については、現時点で十分な科学的根拠がありません

米国作業療法協会(AOTA)も、反射の「統合」そのものを目的にするのではなく、子どもが日常生活により参加できるようにサポートするアプローチを推奨しています。

情報があふれる時代だからこそ、「何を根拠にしているか」を見ることが大切です。

welleapでは、子どもリハビリセンターIlluminationの専門家と一緒に、ダイナミックシステムズ理論をはじめとした科学的根拠に基づいた視点から、子どもの発達を保護者の皆さんと一緒に考えていきます。

お子さんの発達が気になったとき、大事なのは「◯ヶ月でできないからダメ」とチェックリストに照らし合わせることではありません。

その子の身体の状態と、今いる環境を、丁寧に見てあげること。

「うちの子、大丈夫かな」と思ったら、まずはその不安を、発達を専門に見ている人に話してみてください。

子ども達の未来を一緒に考えるために。

子どもリハビリセンターIllumination/welleap
理学療法士 平川晋也

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