「特別な支援を受けさせなきゃ」と思う前に‐発達に関する考えかた‐

著者:平川晋也(理学療法士/株式会社LIGHTSWELL 代表取締役)


「うちの子、特別な支援を受けさせたほうがいいのかな」

そう思いはじめた保護者さんに、僕がいちばん最初に伝えたいことがあります。

支援やテクニックを探す前に、一度だけ、“発達そのものの見方”を変えてみませんか。

じつはここ数十年で、発達科学の考え方は大きく変わってきました。 今日はその話を、できるだけかみ砕いてさせてください。

目次

「脳が順番に成熟して、できることが解禁される」──この見方は古くなってきた

昔はこう考えられていました。

発達とは、脳が決まった順番で成熟して、できることが一つずつ解禁されていくもの。 積み木みたいに、下から順番に積み上がっていくもの。 だから「できない」のは、「まだその段階に達していないから」だ、と。

それに基づいて、必死にハイハイの練習をする事業所などもありました。
原始反射が残っているか確認している事業所もあります。
でも、現在は古い考え方として知られています。

この考え方を、神経成熟理論と呼びます。 長いあいだ発達の常識でしたが、いまはその限界が見えてきています。

なぜか。それを示す、有名な実験があります。

まだ歩けない赤ちゃんが、“歩く”とき

まだ自分では立てない、歩けない赤ちゃんを思い浮かべてください。

その子の体を支えて、小さなベルトコンベア(トレッドミル)の上に、そっと足をつけます。 すると、その子は──まるで歩くように、左右の足を交互に、リズミカルに踏み出しはじめるんです。(Thelen & Ulrich, 1991)

ふだんはほとんど足を踏み出さない、生後7か月の赤ちゃん6人で試した実験では、6人全員が、すぐにこの動きを見せました。(Thelen, 1986)

歩く練習をさせたわけじゃありません。 ただ、足元が動くという“環境”を用意しただけ。

それだけで、その子の中に隠れていた「歩く動き」が、ふっと表に出てきた。

研究者はこれを「隠れた力(hidden skills)」と呼びました。

ここから見えてくるのは、こういうことです。

能力は、脳の中で完成してから、順番に出てくるのではない。 その子の体と、まわりの環境と、その場の課題。それらが噛み合った瞬間に、立ち現れてくる。

「まだできない」は、「その力が中にない」とは限らない。

力が出てくる“環境”に、まだ出会っていないだけのことが、ある。

子どもは、感覚を“受け取る”のではなく“取りにいく”

もう一つ、大事な見方の変化があります。

子どもは、まわりの感覚刺激をただ受け身で浴びて育つわけじゃありません。

自分から手を伸ばし、転び、ぶつかり、もう一度やってみる。 自分で動いて、その手応えを、自分で確かめにいく。

歩きはじめの赤ちゃんは、自由に遊んでいる1時間のあいだに、平均で約2,368歩あるき、約17回ころぶ、というデータがあります。(Adolph et al., 2012) 転んでも、平均2秒ほどでまた立ち上がって、何事もなかったように動き続ける。

この“自分から動いて、確かめて、また動く”くり返しの中で、脳のつながりも、体の使い方も、少しずつ変わっていきます。

受け身で与えられた刺激ではなく、自分から取りにいった経験だからこそ、それが学習になっていく。 ここは、僕たちがすごく大事にしている部分です。

発達は、一直線でも「1+1=2」でもない

だから発達は、決まった一本道を進むものではありません。

その子の遺伝的な個性も、その日の体調も、まわりの環境も、ぜんぶが絡み合って、その時その場で育っていく。 同じ働きかけをしても、子どもによって、日によって、出てくるものは違う。

1+1が、いつも2になるとは限らない。 そういう複雑なシステム(複雑系)なんです。

だから、「この子の中の何かが足りない」とこの子自身の内側を探しにいくより、 「この子は今、どんな環境となら噛み合うだろう」と外側を見るほうが、ずっと役に立ちます。

いま、発達科学はこう議論している

ここで、最近の議論を一つだけ紹介させてください。

これまで、脳性麻痺と発達障がい、そして“診断はつかないけれど気になる”状態は、それぞれ別々の状態として語られてきました。

でも近年は、これらを別物として線引きするより、運動や発達の困りごとの“程度の連続(グラデーション)”として捉え直そう、という議論が広がっています。(この論争の整理として、Lumsden et al., 2024)

連続したグラデーションだとすれば、「はっきり診断がつくまで待つ」必要は、必ずしもない、ということになるからです。 気になった、その段階から、できることがある。

僕たちwelleapが「診断前から」関わるのは、この考え方に立っているからです。

まず、環境を整えよう。安全に、失敗できるように

長くなりました。 でも、ここまでの話は、保護者さんが今日からできる、たった一つのことにつながっています。

特別なテクニックを探す前に、まず“環境”を整える。

たとえば、安定した椅子や抱っこ紐で長い時間しっかり固定するより、自由に動ける時間と空間をつくる。

転んでも大丈夫なように整えたうえで、その子が自分から手を伸ばし、試し、失敗できるようにする。

子どもにとって、失敗は遠回りじゃありません。 失敗しながら試行錯誤する、その過程そのものが、発達です。

だから保護者さんの役割は、「正解を正しくやらせる支援者」ではなく、 「その子が安全に挑戦できる場をつくる、環境のデザイナー」。

そう考えると、肩の力が、少し抜けませんか。

ひとりで抱えなくて、いいんです

もちろん、「特別な支援なんて要らない」という話ではありません。 順番の話です。

まず環境を整える。そのうえで、気になることは専門職と一緒に考えていい。

welleapは、まさにこの「診断はないけど気になる」の段階から、理学療法士や作業療法士が一緒に考える場です。

「心配しすぎかな」で、いいんです。 その段階で、大丈夫。

気になることがあれば、welleap公式LINEから気軽に話しかけてください。

お子さんを変えようとしなくて、いい。 その子が育つ環境を、僕たちと一緒にデザインしていきましょう。

子ども達の未来を、みすえて。


参考文献と、その位置づけ

  • Thelen, E., & Ulrich, B. D. (1991). Hidden skills: A dynamic systems analysis of treadmill stepping during the first year. Monographs of the Society for Research in Child Development, 56(1), 1–98. → まだ歩けない乳児でも、支えてトレッドミルに乗せると、歩行に似た交互のステップが現れることを示した研究。ダイナミックシステムズ理論を発達研究に応用した代表的な仕事で、「能力は脳の成熟で解禁されるのではなく、体・環境・課題が噛み合った文脈で立ち現れる」という見方の中心的な実証例です。
  • Thelen, E. (1986). Treadmill-elicited stepping in seven-month-old infants. Child Development, 57(6), 1498–1506. → ふだんステップをほとんど見せない7か月児6人が、全員すぐに交互ステップを示した研究。「その動きの仕組みは“消えた”のではなく、表に出ていなかっただけ」という解釈を支えています。
  • Adolph, K. E., Cole, W. G., Komati, M., et al. (2012). How Do You Learn to Walk? Thousands of Steps and Dozens of Falls per Day. Psychological Science, 23(11), 1387–1394. → 自由遊び中の乳児の移動量を大規模に記録した査読付き研究。「1時間に約2,368歩・約17回転倒」は、この論文の実測値です。歩行が決まった一本道ではなく、自分から動く膨大な試行錯誤から育つことを示しています。
  • Lumsden, D. E., et al. (2024). Cerebral palsy and neurodevelopmental disorders with motor disabilities: Similar but not synonymous. Developmental Medicine & Child Neurology. → 脳性麻痺と神経発達症の関係をめぐる、現在進行形の議論を扱った論文。「連続体として捉え直す動き」と「同義ではないとする慎重論」の両方を示しており、本記事では、このテーマが“確定した定説ではなく議論の最前線である”ことの根拠として挙げています。
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