「気をつけて!」「足元見て!」って何回言ったか分からない…。
うちの子、なんでこんなに転ぶんだろう? 不注意? 筋力不足?
そんなふうにモヤモヤしている方、けっこう多いと思います。
このブログでは、発達科学の視点から「子どもが転ぶ理由」と「親にできる本当に意味のあるサポート」を書いてみました。
そもそも、子どもってなんであんなに転ぶの?
結論から言うと、幼児期の子どもが転ぶのは当たり前です。ちゃんと身体的・神経的な理由があります。
まず、子どもは大人に比べて頭が大きくて重心が高い(胸のあたり)。だから、ちょっとした段差や傾きでグラッとなりやすいんですね。
それに加えて、「段差があるから足を高く上げよう」みたいな予測して身体をコントロールする機能がまだ未熟。大人は無意識にやってることが、子どもの脳ではまだ処理しきれていないわけです。
つまり、転ぶこと自体は成長の途中経過であって、何もおかしくないんです。
ただし、「年齢の割にやたら転ぶ」なら少し注意
「もう年長さんなのに、平らなところでもよくコケる」「極端に不器用な気がする」という場合は、少し別の背景があるかもしれません。
発達に特性のあるお子さんは、定型発達のお子さんと比べて転倒しやすく、ケガのリスクも高いことがデータで分かっています。
知っておきたいデータ
- DCD(発達性協調運動障害)の併存率:ASD(自閉スペクトラム症)の約50〜80%、ADHDの約30〜50%にDCDが併存しているとされています。DCDは、いわゆる「極端な不器用さ」のこと。
- 姿勢や歩き方の特徴:ASDのお子さんでは、立っているときの身体の揺れが大きかったり、歩幅がバラバラだったりするという研究報告が多数あります。
もちろん「転ぶ=発達障害」ではないですが、頻度や程度が気になるなら、一度医療機関や専門家に相談してみるのもアリだと思います。
転ぶ原因は「脳の通信ケーブル」と「身体の地図」
じゃあ、なんで身体の使い方がうまくいかないのか? その鍵を握っているのが、脳の中にあるSLF(上縦束)という神経の束です。
これは、脳の前頭葉(「身体を動かそう!」と指令を出すところ)と、頭頂葉(空間や感覚を処理するところ)をつなぐ、いわば太い通信ケーブルみたいなもの。
このケーブルの連携がスムーズじゃないと、脳の中に「正確な自分の身体の地図(ボディ・スキーマ)」が作れません。
自分の足の長さ、関節の曲がり具合、空間の中での自分のサイズ感。こうした情報が脳の中でズレていると、「ちゃんと足を上げたつもりなのに段差に引っかかる」ということが起きます。本人の感覚と実際の身体の動きにギャップがあるんですね。
「感覚をたくさん入れてあげればいい」は本当?
ここでよく出てくるのが「感覚統合」という言葉。ただ、ここで一つ整理しておきたいことがあります。
「感覚統合」と「感覚統合療法」は別モノです。
「感覚統合」というのは、脳がいろんな感覚情報をまとめて処理する仕組みそのもの。これは神経科学的な事実で、私たちの脳が当たり前にやっていることです。
一方、「感覚統合療法」は、トランポリンやブランコなどで揺れ(前庭覚)や圧力(固有受容覚)の感覚をたくさん入れてあげよう、というアプローチのこと。この受動的に感覚を入力する従来型の感覚統合療法については、近年の研究で効果や信頼性に対して疑問が投げかけられています。
なぜかというと、大人が手足を動かしてあげたり、遊具に乗せて揺らしてあげるだけだと、子ども自身は「自分で動こう!」と思っていないから。脳はただ感覚を受け取るだけの「受信機」になってしまって、そこに「予測」がないんです。
この「予測」がないと、脳は学習モードに入れない。ここがすごく大事なポイントです。
脳を育てるのは「自分でやってみる」と「失敗」
じゃあ何が脳の神経ネットワークを太くするのか? それは、子ども自身の「自発的な探索」です。
「あのオモチャ取りたい!」「この段差を登ってみたい!」と自分から動くとき、脳の中ではこんなことが起きています。
- 動く前の予測:脳が「この動きをしたら、こんな感覚が返ってくるはず」という予測データを出す
- 結果との答え合わせ:実際に動いてみて、「あれ?思ったより足が上がってなかった」というズレを感じる
- 身体の地図の書き換え:このズレ(予測誤差)をもとに、脳が「自分の身体の地図」をアップデートする
つまり、「転ぶ」や「失敗する」こと自体が、脳にとっての一番の学習データなんです。
逆に言うと、「転ばないように手を引いてあげる」「受け身の状態で感覚を入れてあげる」といった関わりは、脳の学習チャンスを奪ってしまう可能性もあります。
じゃあ、親にできることって?
よく転ぶお子さんに必要なのは、「足元を見なさい!」という声かけでも、大人が感覚を入れてあげることでもありません。
大事なのは、子ども自身が「やってみたい!」と思える環境を作ること。安全にバランスを崩せる、安全に転べる場所で、たくさん試行錯誤させてあげることです。
考え方のシフトとしてはこんな感じ。
- ✕「感覚を与えてあげる」(受け身)
- ◎「自分で探索できる環境をデザインする」(能動的)
お子さんの「やってみたい!」という気持ちと、そこから生まれる小さな失敗こそが、脳の神経ネットワークを育てる一番の栄養です。
この記事を書いた人:ライトスウェル代表 平川
